1 事件の内容

 居酒屋の客同士がけんかして、傷害事件ということで、両者ともに逮捕されました。傷害と言っても、お互いにかすり傷程度でした。

2 受任

 けんかした片方であるAさんが当番弁護士の派遣を要請し、私が警察著に派遣されました。深夜に逮捕され、翌日の午後に私が警察署で面会しました。逮捕されると72時間、閉じ込められます。その期間内に検察官が裁判所に勾留という決定をすることを請求すると、もう20日間閉じ込められます。

 Aさんから事情を聞きましたが、示談するまでもなく、双方が相手に謝罪し、被害届を取り下げれば、検察官は勾留請求しないのではないかと考えられました。ただ、逮捕後、ここまでで15時間程度が過ぎており、持ち時間はあと57時間しかありません。

3 弁護活動

 けんかの相手であるBさんは、Aさんが閉じ込められている警察署から30分程度のところにある警察署にいました。その日は時間の余裕があったので、すぐにその警察署に向かうことにしました。Aさんとの面会は弁護人になるための面会なので、夜間でもできます。しかし、Bさんについては、私は弁護人となろうとする者ではないので、4時半頃までに警察署に入らないと面会できなくなります。大急ぎでBさんがいる警察署に向かい、なんとか間に合いました。

 Aさんとの面会は警察官の立会いもありませんし、時間の制限もありません。ところが、Bさんとの面会は警察官の立会があり、しかも10分程度しか認められませんでした。

 Bさんと面会して、大急ぎで、示談金の支払いはしないで、互いに被害届を取り下げるという解決策を提案しました。BさんはAさんに腹を立てている様子もなく、「バカやっちゃった。」と後悔している様子で、すぐに私の提案を受け入れてくれました。

 すぐにAさんが閉じこめられている警察署にとって返し、Aさんと面会し、Bさんの対応を伝え、示談金なしの示談をすることの意思を確認しました。

 もう暗くなっていましたが、事務所に帰り、示談金の支払いをしない内容の示談契約書と被害届の取下書を書きました。

 翌日、Aさんの警察署にそれを持って行き、示談契約書と被害届の取下書に署名し、指印してもらいました。指印というのは、人差し指をスタンプ台のようなものに押しつけて、その指を書類に押しつけてするもので、印鑑がない場合の捺印と言ってよいでしょう。

 その足でBさんの警察署に行って、Bさんにも示談契約書に署名・指印してもらいました。これで示談金なしの示談が成立しました。取下書にも署名・指印してもらいました。

 その日のうちに、AさんとBさんの被害届の取下書と示談契約書の写しを警察署に提出しました。Aさんの話では、翌日に検察庁に連れて行かれることになったということでした。翌日の遅くとも午前中には、検察官に勾留を請求しないようにとの意見書を提出しなければなりません。

 事務所に帰った後、検察官にあてて、勾留を請求しないようにとの意見書を書き、翌日の朝一番で検察庁に提出しました。

 AさんもBさんもその日のうちに釈放されました。起訴されなかったので、裁判にもならず、前科もつきませんでした。