1.示談
言うまでもなく、被害者がある犯罪では示談をするのが一番です。示談が成立すれば、早く釈放されることもありますし、起訴猶予となり前科がつかなくなる可能性もあります。罰金で終わり、懲役刑を言い渡されなくなることもあります。懲役刑を言い渡される場合でも、執行猶予となり、また悪いことをしなければ、刑務所に行かなくてもよくなることもあります。
2.誰が示談交渉をするか。
示談は犯罪を犯した人がしてはいけません。検察官から罪証を隠滅しようとしたとか疑われる危険があります。被害者に働きかけて、その言い分を曲げさせようとしたと疑われるのです。
被害者に本当に申し訳ないと思って、被害者のところを訪ねても、被害者はあなたを怖がって会おうとしないことが予想されます。そもそも、性犯罪などの場合には、被害者はあなたをひどく嫌悪しています。あなたの顔を見ること、声を聞くことだけでもひどく嫌なことです。その被害者のところに押しかけたりすると、被害者の心の傷をもっと深くします。そうなれば、示談をすることがむずかしくなります。
被害者があなたを怖がっていれば、あなたの何気ない一言や何気ない仕草から、あなたにおどかされたと思い込む危険もあります。被害者がそう思い込んで、警察官や検察官に連絡して、おどかされたとでも言えば、そもそも逮捕されていなかったのに、逮捕されるおそれがあります。せっかく保釈が通って釈放されたのに、保釈が取り消されて、また閉じ込められるおそれもあります。
示談は悪いことをした被疑者が自分でしようとしてはいけません。弁護士に任せるべきです。
また、あなたのつれあいや親などの親族に任せることも感心しません。経験のある弁護士であれば、被害者のデリケートな心理状態を知っています。そのデリケートな心理をわかっていない人が、慎重さを欠いて接触すると、かえって被害者の心の傷を深くし、示談がむずかしくなります。被害者は証人になります。あなたの家族が被害者をおどしてその証言をねじ曲げようとしたという疑いを受けて、証人威迫罪を犯したとされて、逮捕される危険すらあります。
そんなことはないと思うかも知れませんが、性犯罪を犯した息子を心配するあまり、被害者宅に押しかけて、弁護士がそれまで慎重に運んでいた示談交渉を台無しにした例があります。それだけでなく、検察官がひどく怒り、それまでは証拠とするつもりがなかった証拠の取調べを請求してきました。その息子さんのしたことが悪質であることを強調する証拠であるだけに、私としてはできれば法廷に出して欲しくなかったものでした。
3.被害者に関する情報
示談をするためには、被害者の住所、氏名、電話番号などの情報が必要です。あなたが知っているのであれば、それを弁護士に教えてください。
また、被害者の人柄も知っている限り、弁護士に教えてください。被害者が怒りっぽい人であれば、弁護士としてはその怒りを受け止めてから示談の交渉をしなければなりません。被害者が怖がりであれば、怖がらせないようにソフトに接触する必要があります。被害者の人柄は、示談交渉を円滑に進めるために知っておく必要が高いものです。
自分の弁護士には、被害者に関して知っていることを正確に伝えてください。
4.示談金
示談をするためには、言うまでもなくお金が必要です。相場があるかと聞かれることがよくありますが、相場はないと思ってください。
たとえば民事事件で慰謝料請求をするとして、だいたいこんなところかなという線はないわけではありません。しかし、犯罪の被害者はひどい心の傷を負っていることが多く、そのような場合には、ある程度の示談金を提示しても、なかなか納得してくれません。こちらはこちらで、なんとか示談してもらって、処分を軽くしようと必死なので、どうしても示談金は高額になりがちです。
電車内の痴漢、特に下着の中に手を入れたわけではなく触っただけというような場合は30万円しか提示しないというポリシーの弁護士もいますが、100万円近い金額でなければ示談が成立しなかったという例もあります。
女性を酔わせてホテルに連れ込んだ事件の示談金が1000万円を超えた例も聞いています。
いずれにせよ、今後の人生で前科者として扱われないようにするためには、全財産をはたく覚悟をしておいた方がいいかと思います。