1.盗撮
盗撮行為は、各都道府県の迷惑防止条例で処罰されます。東京都条例では、スカートの中にカメラを向けただけで、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。撮影すれば、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。
常習として撮影をした場合には、2年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。常習的に痴漢をした場合より重い処分です。
撮影までした場合、盗撮行為の立証は簡単です。カメラだのスマホだのに写真が残っています。偶然スカートの中が写るということはありえないので、そのような写真があれば、アウトです。
2.弁護目標
盗撮行為をしてしまったのであれば、まず目指すのは示談の成立です。ただ、性犯罪で示談を成立させるのは、他の犯罪に比べてとてもむずかしいことです。
3.性犯罪の被害者
当然のことながら、被害者はひどく傷ついていいます。PTSDという病名を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、下記のような症状が現れます。
① 事件前後の記憶を思い出せなくなる。またはできるだけ思い出すことを避ける。
② 逆に、事件のことを今、目の前で起きているように思い出す。
③ 自分がとても不幸であるという感情に苛まれる。
④ 感情が鈍くなり、無感動になる。
⑤ 自分の身の回りのものに、前ほどは興味や関心を持てなくなる。
⑥ 将来がとても不安になる
⑦ 男性に近づけなくなる。男性が乗った電車に乗れなくなり、職場に出勤できなくなる。
⑧ 不眠に苛まれる。
⑨ 身体の一部が動かなくなるなどの、非精神的な症状も現れる。
いろいろありますが、普通の日常生活が送れなくなります。職場に行けなくなると、収入も断たれます。これらの症状から脱するためには、カウンセリングを受け、心療内科に通院するなどの治療も必要になりますが、それには当然、費用がかかります。収入が断たれるのに、支払いが多くなるということも起こるのです。
PTSDとまでは言えない場合においても、上記のような症状が現れる場合があります。そのような場合であっても被害者はひどく苦しみます。長く苦しみます。性犯罪の被害者の手記を読むと、事件後かなりな年数が経っても、上記のような症状から脱することができないことがあることがわかります。性犯罪は被害者の人生を破壊すると言っても過言ではありません。
盗撮ぐらいでとは思わないでください。女性にとって、盗撮というものがあることを知っていても、どうしてそんなことをしたがるのかはまったく意味不明です。それだけにひどく気味悪く思い、ひどく傷つくことがあります。
弁護士が示談のために接触することは、このような被害者の苦しみを増す危険があります。被害者の苦しみを増すことは倫理的に許されないことはもちろんですが、そんなことをすれば、示談の話し合いをすることができなくなります。
4.交渉のために連絡することがむずかしい。
性犯罪の加害者は多くの場合、知人であるという統計があります。このときには、被害者の氏名や連絡先は依頼者が知っています。
しかし、知っているからと言って、不用意に連絡することはできません。加害者の弁護士からの連絡を受けることは、それだけで被害者に大きな恐怖感や不快感を与えることがあります。第三者を挟むなどの工夫が必要です。最初にお会いするときには、その第三者に立ち会ってもらうなどの工夫も必要です。
5.連絡先がわからない場合
依頼者と被害者とに面識がなく、連絡先がわからない場合があります。このときには検察官や警察官に教えてもらうしか方法がありません。
ただ、検察官としても被害者の意向を確認しないで勝手に連絡先を教えることはできません。まず被害者の意向を確認し、示談交渉をしてもよいという場合には、連絡先を教えてくれます。
被害者が示談交渉をしたくないという場合もあります。そのときには、検察官に手紙を託すなどの方法で接触を試みなければなりません。
6.連絡先がわかった場合
なによりも被害者への礼を尽くすことが必要です。被害者はひどい苦しみの中にいること、その苦しみを増すようなことをしてはならないことを肝に銘じ、慎重に接する必要があります。
被害者が怒りを弁護士にぶつけてくることがあります。その怒りを否定せず、受け止めないと示談交渉ができません。いくら依頼者の味方と言っても、被害者の苦しみが伝わってきて、自分もつらくなる場合があります。
7.児童買春その他、被害者が未成年である場合
示談交渉は親権者としなければなりません。普通は両親です。父親と母親に印鑑を押してもらわなければ、示談が成立したことにはなりません。
児童買春の弁護をしたときに、母親は示談を承諾したのに、父親が拒否して示談が成立しなかったことがありました。父親にとっては掌中の玉とも言うべき大事な娘を汚されたのですから、そのお気持ちは当然かと思いました。
被害者は苦しんでいます。それを目の当たりにする両親は普通はひどく怒っています。それも受け止めなければなりません。
8.示談が成立しなかった場合
反省していることをアピールするために、弁護士会などにお金を寄付するという方法もあります。月収の2~3ヶ月分という話を聞いたことがありますが、相場があるわけではありません。
9.被疑者・被告人の準備
逮捕されてしまった人もいろいろすべきことがあります。
(1) 示談を成立されるためには、本人が被害者に十分謝罪することが必要です。閉じ込められて面会に行けない場合、被害者が本人と会うことを拒否した場合には、被害者への謝罪文を書いてもらうことがあります。
(2) 謝罪文は心のこもったものではなければ意味がありません。通り一遍のものでは、逆に被害者を怒らせてしまい、その苦しみを増す危険があります。
心のこもった謝罪文を書くには、まず被害者の苦しみ、激しく、しかも長く続く苦しみを理解する必要があります。性犯罪の被害者の手記が出版されていますので、それを読むとか、PTSDに関する本を読んで、その苦しみを理解することに努めなければなりません。
(3) 釈放されれば、カウンセリングを受けることも検討すべきです。性犯罪が、他人の人格を尊重できないという人柄の表れであることもあります。自分の中に問題点があるかもしれません。それに気付いて、それを改めるよう努めることは、自分がまた同じようなことをしでかさないようにすることに役立ちます。
そのような努力があれば、弁護士としては、裁判で、本人が立ち直ろうと努力していることを主張することもできます。
10.起訴されるか否か。
強制わいせつや強姦は、一人だけでしたのであれば親告罪ということになり、示談が成立して告訴が取り下げられれば、起訴されることがなくなります。
親告罪でない場合にも、今回の事件が初めてで、示談も成立し、反省も十分だと検察官が思ってくれれば、起訴猶予となることがあります。
11.起訴された場合
今回の犯行が初めてのものであれば、執行猶予を狙える可能性があります。保釈請求をして、お金をつんで釈放される可能性もあります。
訴えられることが確実であると思われる場合には、保釈請求の準備をする必要があります。もちろん、保釈金の用意ができることが前提です。
逃げたり、証拠隠滅をしないと誓約する誓約書を書いてもらわなければなりません。家族に本人を監督するという内容の身元引受書を書いてもらう必要もあります。弁護士は保釈請求書を書かなければなりません。
12.裁判所に訴えられた後は、裁判に向けた準備が必要になります。
訴えられるまでの間に、示談が成立しなくても、その努力を続ける必要があります。裁判所が本人に科する刑を決める場合に、示談の成立は重要なファクターになります。また、被害者としても、本人が訴えられて裁判で自分の正当性、犯人の悪質性が認められると思った場合に、示談の方向に心を動かすこともあります。
情状証人を用意する必要があります。あなたがそんなに悪い人ではないとか、あなたが深く反省しているのでやり直せる可能性は十分だとか、自分が監督して二度と法律に反するようなことはさせないとか証言してもらう人です。家族が証言する場合が多いのですが、雇い主が証言してくれる場合もあります。もし釈放されているのであれば、証人になってくれそうな人に頭を下げて、承諾してもらわなければなりません。
あなたの弁護士は、検察官が裁判で提出しようとしている書類のコピーをもらうことができます。そのコピーを見て、間違いがないか確認する作業も必要です。
あなた自身が証言台に立って、反省ぶりをアピールする必要もあります。被告人質問という手続きです。その準備が必要です。なにを尋ねるかは弁護士が考えますが、裁判の日の前日などに弁護士の事務所に行って、予行演習をしておく必要があります。
また、反省ぶりをアピールするには反省文を書くことも有益です。ただ、真剣に書かないと、裁判官の心を動かすものは書けません。
13.裁判の日には、がんばって自分の反省ぶりをアピールしましょう。
14.今回の事件が初めてでない場合には、執行猶予をとることはむずかしくなります。でも、なんとか執行猶予になるように、上に書いたような活動をすべきです。
仮に執行猶予がとれずに刑務所に行くことになるとしても、そんな活動をしておけば、刑務所に入らなければならない期間が少しでも短くなる可能性があります。
自分の弁護士とよく話し合って、自分でできる限りのことをして、弁護士には最善の弁護活動をしてもらいましょう。
15.身に覚えのない場合
これも、弁護士とよく話し合って、無罪判決を求めるにはどうすればよいかを検討しましょう。ただ、ケース・バイ・ケースとしか言いようがなく、決まった方法があるわけではありません。