1 はじめに

  「あ~~~くたびれた。」とつぶやいて、公園のベンチに座ったあなた。

  響子ちゃんへのお土産が入ったビニール袋は足元に。財布と書類が入ったかばんはおしりの横に。

  3つになる響子ちゃんは可愛い盛り。くたびれていても、足元のお土産を見て、響子ちゃんに渡すところを想像しただけで、頬がゆるんできます。

  ところが、ふと恐ろしいことに気付きました。奥さんへのお土産を買っていません。

  お土産というよりは、今日は結婚記念日。奥さんだけに渡すなにかがないと恐ろしい目にあいそうです。冷や汗たらりという感じ。

  去年の結婚記念日を忘れたときは、「想像を絶する」という表現があてはまる事態に。

 

  でも、もう駅に向かわなければ、帰りの新幹線に乗り遅れてしまいます。

  あせって立ち上がり、なにかお土産を買える所に向かおうとするあなた。お土産のことで頭がいっぱいだったからか、響子ちゃんへのお土産だけを握りしめて・・・。

  公園を出て、向かいにあった土産物屋に。お土産を買ってお金を払おうとして、かばんを忘れたことに気づき、慌てて公園のベンチに。ベンチの上には秋風が吹き抜けるだけ・・・

  誰かがかばんを持って行きましたよね。その誰かがしたことが置き引きであることは言うまでもありません。

 

2 置き引きは遺失物横領罪?

  俗にいう置き引きは、法律的には遺失物横領罪か窃盗罪として処罰されるということになります。

  遺失物横領罪は刑法254条に定めてあります。

"254 (遺失物等横領)

遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。"

 

「遺失物」というのは、平たく言えば、なくなった物。行方がわからなくなった物というような意味です。

 それをまるで自分の物のようにして持って行けば、遺失物横領罪が成立します。

  上の例とは違いますが、犯人が、置き忘れられたかばんを30分見ていて、誰も取りに来ないのを確認して持って行ったというような場合、被害者も置き忘れた場所を覚えていないというような事情もあれば、遺失物横領でしょう。

 

3 置き引きは窃盗罪?

  置き引きは窃盗罪として処罰されることもあると書きました。

  窃盗罪は、刑法235条に定めてあります。

 "刑法第235 (窃盗)

  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。"

  

  遺失物横領罪とどこが違うかと言うと、254条には「占有を離れた他人の物」と書いてあります。

  これに対して、窃盗罪の「財物」とは他人の占有する物と解されています。

   占有という小難しい言葉が出てきました

  占有というのは、財物に対する事実的支配とか言われます。

  手に握っているとか、自宅のタンスにしまってあるとか、近くで見張っているとかいうことです。

  自宅のタンスにしまってある物を空き巣が持って行けば、窃盗です。30分も前に置き忘れ、所有者もどこに置き忘れたかわからなくなってしまった物を持って行けば遺失物横領です。

  懲役10年以下か、懲役1年以下かという違いがあります。これは大きいですよね。

 

4 どんな場合に窃盗?

  それだけに、人の物を持ってきた場合に、遺失物横領か窃盗かは激しく争われることがあります。

  裁判例では、バスを待つ行列に並んでいて、カメラを置き忘れても、5分後に気づき、気付いた時点でのカメラとの距離も20mぐらいだった事件で、窃盗とされたものがあります。

  これぐらいだったら、まだ、被害者が「事実的支配」内にあったという理屈です。

  確かに、被害者が置いた場所を覚えていて、そちらを見れば、見えるところに置き忘れたのであれば、すぐに取りに行けばいいのですから、支配内にあると言えるでしょうか。

  また、被害者が公園のベンチにポシェットを忘れ、200m先で気付いた事件で、27m程度離れたところで犯人がポシェットを持って行った事案も窃盗罪とされました。

  まだ、被害者の占有は失われていないということです。これもカメラの事案と同じようなものでしょう。

   これらの裁判例を基とした場合、最初の事案はどちらになるでしょうか。30分後に、新幹線に乗ってから気付いたというような場合であれば、遺失物横領でしょうか。

 

5 遺失物横領の弁護

  遺失物横領の犯人を弁護する際に、まずすべきなのは示談交渉です。

  物の価格と慰謝料を支払って示談をします。現行犯逮捕され、物が被害者に返されているのであれば、慰謝料を支払って示談をします。

  それと共に、検察官に常習性がないとか、犯行を深く反省していることを極力アピールして、訴えられないことをねらったり、仮に訴えられても執行猶予を目指します。

以上