1 はじめに

 犯人を追いかけてゆく刑事、何度も曲がりながら必死に逃げる犯人、横道に入ったところ、そこは袋小路。追い詰めらた犯人が振り向く。

表情の絶望が。ゆっくりせまる刑事、窮鼠猫を噛むの勢いで刑事に殴りかかる犯人、刑事が「公務執行妨害で現行犯逮捕する。」と一喝して、犯人を羽交い締めに・・・

 この「公務執行妨害罪」とはどんな犯罪でしょうか。

2 公務執行妨害とは

 公務執行妨害は刑法95条1項に規定があります。

第95条1項 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

 公務員に暴行や脅迫を加える行為を禁止するものです。しかし、この規定は、公務員を特別に守ろうとするものではなく、

市民の生活にとって必要な「公務員によって執行される公務そのもの」を守るための規定だとされています。

 

3 公務執行妨害罪の成立

(1)公務員が職務を執行するに当たりなされること

 刑法7条1項によれば、公務員とはこんな人です。

第7条第1項 この法律において「公務員」とは,国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員,委員その他の職員をいう。

 

 警察官、消防士などがイメージしやすいでしょう。しかし、財務省理財局でデスクワークしかしていない役人も公務員にあたります。

 「職務」の範囲については争いがあります。民間の業務を妨害すれば業務妨害罪(刑法233条、234条)が成立します。

このこととの対比で、公務執行妨害罪の「職務」は権力を行使するような公務その他の重要な職務に限られるとの考え方も有力です。

権力を行使するような公務とは、警察官が犯人を逮捕するような行為と考えればよいでしょう。

 しかし、裁判所はそんな限定はしていません。公務員のすることはなんでも職務にあたるという印象です。

 次に、職務を「執行するに当たり」とは、「職務を執行する際に」という意味だと言われています。本来の職務だけでなく,

これと時間的・場所的に接着して一体的関係にある行為も含まれるというのが裁判例です。

時間的に「接着」なんて、法律家はいろんなことを言いますよね。アロン・アルファで時間をくっつけるのでしょうか。

 裁判例では、当時の国鉄の職員が「職員の点呼を終了後,次の職務である事務引継ぎに赴く際」は,職務の執行中にあたらないとしました。

でも、国鉄の運転士が「駅到着後,終業点呼を受けるために当直助役のもとに赴く際」は、職務の執行中にあたると判断しています。

 国鉄と言っても、若い方はご存じでないかもしれません。JRは昔は国鉄と言って、駅員さんは公務員でした。

        (2)暴行・脅迫

 公務員に暴力をふるったり、公務員を脅したりすると公務執行妨害罪成立ということになり、処罰されます。「暴行又は脅迫」があることが必要です。

 「暴行」というのは、法律の世界では、「有形力の行使」とか言います。ぶん殴れば、こぶしという形のあるものを身体にぶつけるのことになり、

このぶつけることが「行使」ということになります。「有形力の行使」とか言われても、慣れないと、なんのことかよくわかりません。

 「脅迫」とは、法律の世界では「害悪を告知する」とか言います。単に脅すといえばわかるようなものですが、こっちの方が「有形力の行使」よりわかりやすいかもしれません。

 この暴行だの脅迫だのは、公務員に向けられることが必要です。警察官に逮捕されそうになった犯人が,

自分の首にナイフをあてて「近づくと自殺するぞ」と叫ぶ行為等は公務執行妨害罪での脅迫とはいえません。

 また、暴行は「公務員に向けられたもの」である必要があります。刑法95条1項は、上記のように、「公務員が職務を執行するに当たり、

これに対して暴行又は脅迫」と書いてあります。この「これに対して」という部分ですね。

公務員をぶん殴れば、公務員に対する暴行であることははっきりしてますよね。

でも、警察官の近くに物を投げつけた場合、これは公務員に「対する」ものではないのでしょうか。

警察官の近くに物を投げつければ、警察官も人の子、少しはひるみます。公務が妨害される危険はあるでしょう。

こんな行為には公務執行妨害罪は成立せず、処罰されないということでよいのでしょうか。

それはちょっとと考える方も多いかと思います。それで、こんな行為は公務員に対する暴行とされています。

それは「間接的に公務員に物理的・心理的に影響しうる間接暴行であれば足りる」からだとかいう理由をつけています。

 さらに、裁判では差し押さえて現場に置かれた覚せい剤のアンプルを踏みつけて損壊する行為が本罪における暴行だと判断された例があります。

こんなことをした奴は処罰すべきだと考える方もそれなりにいらっしゃるとかと思います。

でも、これはアンプルに対する暴行で、公務員に対する暴行と言えるのかなと考える方もいらっしゃるかと思います。

少し条文から離れているのではないかという感じもしますよね。

4 まとめ

 公務執行妨害罪について少し説明してみました。

 冒頭の例で言えば、刑事は公務員です。刑事が犯人を追跡するのはその職務です。

その刑事に殴りかかれば、公務員に対する暴行です。こうして、公務執行妨害罪が成立します。

 オレは悪いことなんかしないから、刑事に追っかけられることはない。

だから、公務執行妨害なんかするはずがないとお考えかもしれません。

しかし、警察官が職務質問をしているときに、警察官があなたが持っているカバンに手を伸ばしてきたとします。

「失礼な!」と思い、警察官の手を振り払ったりすると、それだけで成立する可能性があります。

決して身近にはおこりえない犯罪ではないのです。

 私がこれまでに弁護した公務執行妨害事件は、どれもかなりでっち上げくさい事件でした。

ちょっと抗議したりしただけで、「公務執行妨害で逮捕する。」と言われたというものでした。

警察官は、自分の言うことをきかない国民は、別に暴行や脅迫をしなくても公務執行妨害で逮捕してもかまわないと思ってんじゃないかと疑ってしまいます。

 なお、人に暴力を振るえば、示談を目指すのが普通です。

でも、警察官は絶対に示談にはは応じません。弁護するにも、示談なしでなんとか依頼者に科される刑を軽くする工夫が必要です。

 公務執行妨害罪で捜査されたり、逮捕された場合は必ず、弁護士にご相談ください。