はじめに

 家族が寝静まった深夜。物音一つしない家の中。遠くで車の音。

 あと少しで試験なので、二階の部屋で一人で受験勉強をしているあなた。深夜のアニメも我慢して、方程式を解こうとするが、うまくいかず少しイライラ。

すると、一階でカタリと物音。初めは空耳かと思っていたが、少し経つと、また物音。音がしないようにドアを開けて廊下に出る。

抜き足差し足で階段の方に。上から見下ろすと、誰もいないはずの真っ暗なキッチンから物音。

「泥棒!」と叫ぼうとするが、喉がカラカラになって、うまく声が出ない。隣の部屋では妹が寝ている。騎士道精神を発揮して、思いっきりの勇気を振り絞る。

 黙って静かに階段を降りるあなた。足音を殺してキッチンに向かうと、泥棒は暗闇の中で、大胆にもテーブルの前で何か飲んでいる様子。

静かに近づこうとしたが、足が何かにひっかかり、ガタンと大きな音!「やばい!」と思った瞬間、キッチンの電気がつく。そこにいたのは、年頃の妹にこよなく嫌われている父親

 「お、お、おやじ!なにやってんだよ。」

 「びっくりするじゃないか!お前こそなにやってんだよ。」

 「物音がするから降りてきたんだよ。で、おやじ、なに飲んでんだよ。」

 「眠れなくて一杯・・・この頃、かあさんが酒飲むなってうるせえんだよ。」

 「おふくろ、おやじの後ろに立ってるよ・・・」

 この瞬間がいちばん怖かったりしますかね。

 

 この父親は住居侵入罪で処罰されるでしょうか・・・って、易しすぎる質問。

 

 住居侵入罪は「正当な理由がない」にもかかわらず住居等に立ち入った場合に成立します。

いかに父親が家族からうざがられていても、自由にお酒が飲めなくても、家族として一緒に住んでいる父親がキッチンにいたからと言って、処罰なんかされません。

 

 これが、隣りのおっちゃんだったらどうでしょう。いかに親しくても、深夜に勝手にキッチンに入り込み、酒飲んでたら、犯罪です。これも易しすぎる問題。

 

 人の家に勝手に入ったら、住居侵入罪が成立します。では、門を乗り越えて、庭に入ったらどうでしょう。

家の中には入っていないんだから、「住居」侵入にはならないのでしょうか。そうは問屋がおろしません。住居侵入になります。

 門もなにもない敷地の上にあるアパート。階段にも自由に出入りできます。そこは誰でも自由に出入りしているのだから、階段を上っても住居侵入罪は成立しないのでしょうか。これもそうは問屋がおろしません。成立する場合があります。

 ごくごく身近な場所でも住居侵入罪は成立し、思わぬトラブルに発展することがあります。そこで、住居侵入罪が成立する場合や、逮捕されても、前科がついてしまわないようにするためにはどうすればよいのでしょうか。

 

 

住居侵入罪とは?どういう場合に成立する?

 住居侵入罪は、違法に住居や建造物に侵入したとき、さらに退去の求めに応じなかったときに成立します。刑法130条に定められています。次のような条文です。

 

"第130条(住居侵入等)

 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。"

 

住居の内部に侵入しなくても成立

 「住居」だの、「邸宅」だの、「建造物」だのってあります。どこにも「敷地」とは書いていません。だったら、いくら塀で取り囲まれていても、敷地に入っただけじゃあ、この条文にはあてはまらないじゃないかって考えたあなた!チコちゃんには叱られません。そう考えるのはもっともです。

 じゃあ、敷地に入っただけでは無罪になるかというと、そうは問屋がおろしません。「なんや、問屋だらけやな。大阪は船場センター街かいな!」と考えたあんさん、浪速の血は争えまへんなぁ。

 昭和25年に最高裁が「囲繞地」も「建造物」に含まれると判断しています。「囲繞地」とは聞き慣れないことばですが、「いにょうち」と読みます。「いにょ~ち」って書くと、少し親しみが湧きますでしょうか。

 そもそも住居侵入罪は、住居の平穏を守るための罪だと考えられています。変な人が勝手に家に入ってくるようだと、落ち着いて暮らせません。

 敷地でも同じですよね。塀で取り囲まれて、鍵のついた門から出入りする敷地。門にいつも鍵をかけて、応対は門の脇にあるインターホンでという立派なお家。家族は敷地であっても、誰かが勝手に入ってくるなんていうことは予想していません。敷地に誰かが入っただけで、みんな大慌て。これでは、住居の平穏が守られたとは言えません。敷地に入っただけでも住居侵入だというのは普通の人の感覚では不思議なものではないでしょう。

 

 なお、ベランダやバルコニーなどはもちろん、お家の外ですが、住居侵入罪は成立します。たとえば勝手に屋根にのぼったというケースだって住居侵入です。夜中に起きて、ふとバルコニーに目をやったら、そこに知らないおっちゃんがいたりしたら、住居は平穏じゃありません。そこに深田恭子がいたら、私はうれしいけど、それでも住居侵入です。もちろん、絶対に告訴なんかしませんけど。

 

正当な理由って?

 条文に「正当な理由がないのに・・・侵入」って書いてありますよね。どこぞのおっちゃんが、知人でも友達でもない人の家に勝手に入ったら、「正当な理由がない」ことは当然ですよね。

 

 宅急便の荷物を配達してきたお兄ちゃんがマンションのエントランスから入って、エレベータに乗り、廊下を歩いて受取人の部屋まで行くことを住居侵入だと思う人はいないでしょう。それらの場所は、オートロックでもない限り、誰でも自由に入れる場所です。

 でも、チラシを集合郵便受けに投函することを禁じているマンションがあります。貼り紙がしているマンションがありますよね。エントランスに目立つ形で貼り紙があるのに、そこに立ち入って、郵便受けにチラシを投函することも許されるのでしょうか。

 住居侵入が成立すると考える余地は十分にあります。下品なチラシが郵便受けに入れられることを嫌がる人はたくさんいます。下品でなくても、興味のないチラシがたくさん入っていて、捨てるのにわずらわしい思いをした人は少ないとは言えないでしょう。

 宅急便の配達人とチラシ配りのお兄ちゃんではどこが違うのでしょうか。

 一つの答えは、宅急便の配達人が立ち入ること住民のためですし、それは当然に予想されていることなので、マンションの管理者の意向に反しないというものです。これに対して、チラシについては、貼り紙までしてあって、明らかにマンションの管理者の意向に反するから住居侵入だというものです。管理者が許している場合には、住居の平穏は害されませんよね。

 

 自衛隊の宿舎に立ち入って、イラクへの派兵に反対するビラを集合郵便受けや玄関ドアの新聞受けに入れて歩き、住居侵入罪に問われた事件がありました。平成20年に最高裁は、このような行為に住居侵入罪を適用できるとしました。管理権者の意向に反するので、侵入だという理屈です。

 この事件では、表現の自由の範囲内だという主張もされています。最高裁は処罰しても憲法に反しないとしましたが、これについてはいろいろな見解があります。

 

 強引にまとめれば、立ち入る目的によって、侵入になったりならなかったり、処罰されたり、されなかったりするということです。割と自由にみんなが立ち入る場所でも目的によって処罰される場合があるということです。

 例えば、銀行の支店や出張所に対し、ATM利用者のカード暗証番号を盗み見る目的で立ち入れば、建造物侵入罪が成立します。これについては、あまり反対する人はいないかと思います。

 

 

 

<h3>住居侵入行為だけでも逮捕されます</h3>

 人の住居に不法に侵入する行為は、なんらかのよこしまな目的でなされることが多いでしょう。たとえば、強盗や窃盗、殺人、強制性交などをしようとして、侵入することが多いはずです

 しかし、住居侵入は独立したそれだけで処罰できる犯罪です。ですから、そのような他の犯罪をする目的がなくても、住居侵入だけで処罰されます。

 自分を振った女性と話をしようとして、ベランダに立ち入った男性を弁護したことがあります。しっかり逮捕され、20日間勾留されて、起訴されました。

 

<h2>住居侵入罪で逮捕されてしまったら?</h2>

 仮に逮捕され、起訴されてしまうと前科がつくことになります。また、逮捕後から起訴されるまでの間、最大で23日間、閉じこめられたままになります。

 起訴された後、保釈請求ができなければ、さらに短くても1ヶ月とか1ヶ月半とか閉じこめられたままです。これは他の刑事事件と同じですが。

 

 長引く前に、さっさと示談を成立させて、早いこと釈放されることを目指すべきです。示談には、もちろん示談金が必要です。

 

<h3>示談金の相場と注意点</h3>

 住居侵入罪の示談金には、相場があるわけではありません。個別の事件で示談金はバラバラであり、100万円を超える高額な示談金を支払う可能性もあります。

 

 100万円というといい金額ですが、被害者の引っ越し費用も請求される可能性もあります。女性の一人暮らし宅に立ち入った場合、被害者は「もうこんな家に住みたくない。引っ越したい。」と考えても不思議ではありません

 特に女性の被害者は、そこに住むことにたいへんな恐怖を感じるようになり、そこでは落ち着いて暮らすことができなくなることが多いようです。この場合は、まずは引越費用を試算し、それに慰謝料を上乗せして、全体の示談金を決めることになります。このようなときに、100万円ってのは決して高い金額ではありません。

 

 

<h2>弁護士に依頼して早期解決を</h2>

 逮捕されると、面会もなかなかできず、示談を進めるのが難しくなります。弁護士であれば。原則としていつでも面会できるので、示談を含めた打合せができます。

 また、弁護士は示談交渉に慣れています。素人が慣れない交渉をして、逆に被害者を怒らせた例もあります。示談交渉は弁護士に任せるべきです。

 示談の成立は起訴・不起訴の決定や刑の重さに大きな影響を与えます。できるだけ早く弁護士に相談し、できるだけ軽い処分を受けるように努めることをお勧めします。